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東京地方裁判所 平成2年(行ウ)18号 判決

東京都品川区上大崎一丁目四番四号

原告

八田昭三

東京都港区高輪三丁目一三番二二号

被告

品川税務署長

早川博

右訴訟代理人弁護士

太田黒昔生

右指定代理人

武田みどり

新井宏

砂川功

上賢清

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成元年六月三〇日付けでした原告の昭和六二年分所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和六三年三月四日、昭和六二年分所得税について、課税総所得金額を一二七万六〇〇〇円、課税分離長期譲渡所得金額を一億四四二万一〇九三円、納付すべき税額を二五四五万一〇〇〇円とする確定申告をしたところ、被告は、平成元年六月三〇日付けで課税総所得金額を一二七万六〇〇〇円、課税分離長期譲渡所得金額を二億四〇〇一万一八五〇円、納付すべき税額を六六一二万八〇〇〇円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税額を四八二万一〇〇〇円とする同税の賦課決定(以下「本件決定」という。)をした。

2  本件更正は、租税特別措置法(昭和六三年法律第四号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三六条の二第一項の居住用財産の買換えの場合における長期譲渡所得の課税の特例(以下「本件特例」という。)の規定の適用を誤り、原告の課税分離長期譲渡所得金額を過大に認定した違法があり、これを前提とする本件決定もまた違法であるから、本件更正及び本件決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

三  被告の主張

1  本件更正の課税根拠及びその適法性について

原告の昭和六二年分の課税総所得金額は一二七万六〇〇〇円、課税分離長期譲渡所得金額は二億四〇〇一万一〇〇〇円であるから、本件更正は適法である。

(一) 課税総所得金額 一二七万六〇〇〇円

原告の確定申告額と同じである。

(二) 課税分離長期譲渡所得金額

二億四〇〇一万一〇〇〇円

(1) 原告は、昭和三三年に相続により取得した東京都渋谷区恵比寿南二丁目一五番の八の宅地九〇・〇四平方メートル(以下「本件土地」という。)及び同地上の木造瓦葺二階建工場兼居宅一棟(床面積合計一一九・二七六平方メートル。以下、右建物を「本件建物」といい、本件土地及び本件建物を併せて「本件譲渡物件」という。)を、昭和六二年二月九日、売買代金総額四億二二二二万円でアキエンタープライズ株式会社に譲渡し、その際、仲介手数料、測量費等の譲渡費用として合計一三〇九万三二〇〇円を支出した。

また、本件譲渡当時、本件建物の総床面積の七五パーセントに当たる八九・四六五平方メートルの部分は、原告の実妹の夫である三宅竹男及びその家族並びに三宅竹男が経営する株式会社三宅工務店(これらを併せて「三宅ら」という。)がその住居又は事務所として原告とは別個独立に使用し、原告はその余の部分(総床面積の二五パーセントに当たる二九・八一一平方メートル)だけを使用していたが、原告は、三宅らとの間に成立した東京家庭裁判所昭和六一年(家イ)第三五五四号事件の調停に基づき、本件譲渡の後に、解決金として、三宅に二〇〇〇万円、三宅工務店に三〇〇〇万円をそれぞれ支払って、同人らの使用部分(以下「三宅ら使用部分」という。)の明渡しを得た。

(2) 原告は、昭和六二年度中に、標記の肩書地にその居住用の家屋等を取得し、これらを居住の用に供したが、右居住用財産の取得価額及び右取得に付随して原告が支出した費用等の合計額は二億九一七七万九八一〇円である。

(3) ところで、原告は、本件譲渡物件の全部について本件特例の適用があるものとして確定申告を行ったが、租税特別措置法施行令(昭和六三年政令第七三号による改正前のもの)二四条の二第四項、二三条一項によれば、家屋の一部が居住の用以外の用に供されている場合に本件特例の適用を受けられるのは居住の用に供している部分に限られているから、本件譲渡物件については、本件建物の総床面積に対する原告が現に起居のために使用していた建物部分の割合である二五パーセントに相当する部分だけが本件特例の適用の対象となるに過ぎないものというべきである。

右原告使用部分に対する分離長期譲渡所得については、当該部分に相当する収入金額一億五五五万五〇〇〇円(本件譲渡代金四億二二二二万円に二五パーセントを乗じたもの)が買換資産の取得金額二億九一七七万九八一〇円を下回るので、本件特例によりその譲渡はなかったこととなる。

また、三宅ら使用部分に対する分離長期譲渡所得は、右部分に相当する収入金額三億一六六六万五〇〇〇円(本件譲渡代金四億二二二二万円に七五パーセントを乗じたもの)から、取得費一五八三万三二五〇円(右収入金額の一〇〇分の五に相当するもの)、譲渡に要した費用五九八一万九九〇〇円(前記仲介手数料等に七五パーセントを乗じたもの及び三宅らに支払った前記解決金)及び分離課税の長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円を控除した二億四〇〇一万一八五〇円となる。

(4) したがって、原告の課税分離長期譲渡所得は二億四〇〇一万一〇〇〇円である。

2  本件決定の適法性

被告は、前記の各所得金額を前提として、国税通則法六五条一項、二項の規定に則り、本件決定を行ったものであるから、本件決定は適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1の(一)の事実並びに同(二)の(1)及び(2)の各事実は認めるが、同(二)の(3)は争う。

本件建物における三宅及び三宅工務店の占有は不法占有であるから、同人らが本件建物の七五パーセントを占有していたことを理由に、原告に対して本件建物全部について本件特例の適用を認めないことは違法である。

2  被告の主張2は争う。

第3証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の各記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  被告の主張する本件更正及び本件決定の根拠事実については、原告の課税分離長期譲渡所得金額の認定に当たり本件譲渡物件のうち三宅ら使用部分が本件特例の適用の対象とならないとする点を除いては、当事者間に争いがない。

二  本件の争点は、専ら、本件譲渡物件のうち三宅ら使用部分についても本件特例の適用があるかどうかである。

措置法三六条の二第一項によれば、同項の特例は同項一号ないし四号に定める資産の譲渡の場合に限って適用されるものとされており、そこにいう「当該個人が居住の用に供している家屋で政令で定めるもののうち所得税法の施行地にあるもの(同項一号)」の意義については、「当該家屋のうちにその居住の用以外の用に供している部分があるときは、その居住の用に供している部分に限る」と規定されている(同法施行令二四条の二第四項、二三条一項)。

ところが、本件では、本件譲渡物件の譲渡の時に、原告が本件建物の三宅ら使用部分を自己の居住の用に供していなかったことは争いがないのであるから、右規定に照らせば、右部分が本件特例の適用の対象とならないことは明らかなものといわなければならない。

原告の主張には必ずしもその趣旨が明らかでない部分もあるが、その本人尋問における供述の内容と併せて理解すると、要するに、原告としては三宅らに対して無断増改築などを理由に再三にわたって本件建物からの立ち退きを求めていたところ、家庭裁判所の調停の席での調停委員の勧めにより、本件建物を売却しその売却代金の中から三宅らに本件建物からの立ち退きのための解決金を支払うという調停が成立したのであるから、本件譲渡の時点では本件譲渡物件全体の正当な使用権原は原告にあり、したがって、本件譲渡物件全体が本件特例の適用の対象となるべきものであると主張するものと解される。しかし、仮に原告主張のような経過があったとしても、そのことから、原告が本件譲渡の時点において本件建物の三宅ら占有部分をも現に居住の用に供していたと認められることとなるものではないから、右のような理由で同部分について本件特例の適用があると解することは困難である。

三  以上のとおり、本件譲渡物件のうち三宅ら占有部分について措置法三六条の二第一項所定の特例の適用がないものとして原告の昭和六二年度の課税総所得金額を一二七万六〇〇〇円、分離課税の長期譲渡所得金額を二億四〇〇一万一〇〇〇円と認定してした本件更正及び本件決定には違法は認められない。

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 市村陽典 裁判官 小林昭彦)

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